小児科医コラム
こころの問題
1)「からだことば」の意味・・・心理社会的ストレスとの関係
「心身相関」という言葉をご存じでしょうか?人間の心身は相互に関係しあっていて、「身体の症状」のために不安や気分が落ち込むなどの「心の症状」が発生することもあれば、「心の症状」のために、頭痛や腹痛などの「身体の症状」が発生したり悪化したりすることがあります。特に子どもは、心身が発達している途中なので、心理社会的的ストレスの影響が直接身体の症状として出現しやすくなると言われています。外出先で何度もトイレに行く、学校へ行く日の朝になると決まってお腹が痛くなる、人ごみの中にはいるとどきどきして呼吸が速くなる・・・。子どもが不安になったり困ったりしているとき、言葉で上手く説明できない代わりに身体の症状が言葉となって(「からだことば」)、周囲の大人にサインを出してくれます。こんな時は、「身体の症状」に注目するだけでなく、子どもの周りの環境を振り返って「何か子どもが困っていないか?」考えてあげてください。
子どもが心理社会的ストレスのために影響を受けているか、日常生活で注目するポイントは、「食欲」「睡眠」「遊び」の三つです。食欲が落ちて体重が増えない・減っている、なかなか寝付けない・途中で何度も目が覚めている・長い時間寝ているのにだるそうだ、以前は好きだったことに興味を示さない、イライラして遊びが続かない・つまらなそうにしているなどは、サインかもしれません。
こんな時は、かかりつけの小児科医にご相談下さい。心理社会的ストレスの影響が大きな病気のことをまとめて「心身症」と呼びますが、その中には生活の工夫やお薬が有効なものがたくさんあります。また、ご家族や学校の先生の協力で改善することもあります。成長に伴ってストレスの処理は上手になるので、多くの症状は徐々に改善していきます。小児科医と共に、成長を見守っていただければ幸いです。
2)おねしょ・おもらしのご相談について
おねしょで小さい頃に悩んだことのある方は多いのではないでしょうか。みんな内緒にしているので、「自分だけ」と思い詰めているお子さんが多いのですが、小学校1年生の10%、6年生の3.5%におねしょを認めるという報告もあるように、非常に頻度の多い相談です。一般に、以下の場合を「おねしょ(夜尿症または遺尿症)」と言います。
- 5歳以上の子どもが寝ている間におしっこを漏らしてしまう
- 1か月に1回以上のおねしょが3か月以上続くものとする
- お昼のお漏らし(昼間遺尿症)などの症状の有無は関係ない
- 焦らない:成長に伴って治ることが多いので、見守る
- 怒らない:子どもに「おねしょをしないように」と叱っても,無意識の排尿なので効果がない。二次的に自分はダメな子だと思って心理的に悪影響を及ぼすので怒らない
- 起こさない:睡眠中に成長ホルモンや抗利尿ホルモンが分泌されてリズムを作っているので、無理に起こして寝不足にしない
- 規則正しい生活:身体のリズムができるように規則正しい生活をする
- 水分制限:寝る前3時間以降に飲んだ水分の80%が「夜間のおしっこ」になるので、昼間はしっかり水分を飲んで夕方から制限する。塩分の少ない食事にすることも大切です
- 冷え対策:冷えは膀胱(おしっこを貯める所)を不安定にさせるので、飲み物を常温にする、衣服や寝具を工夫するなども有効です
- 便秘の解消:慢性の便秘では膀胱の容量が減るので、おもらししやすくなります
3)起立性調節障害について
「朝起きられない」「朝ご飯を食べられない」「朝気持ちが悪い」「集会で長時間立つことができない」「お風呂に入ると気持ち悪くなる」、子どもたちがこのような症状を訴えたとき、どのようなことを考えたらよいでしょうか?- 生活習慣の問題・・・・・「早く寝ないから朝起きられない」
- 学校の問題・・・・・・・「学校に行きたくないから朝調子が悪い」
- 精神的な問題・・・・・・「うつ病の人は朝調子が悪い」
- 心理的な問題・・・・・・「根性が足りない。昔はもっと厳しかった」
でも、「学校のある日もない日も同じように調子が悪い」「午後になると元気だけれど朝が来ると調子が悪い」「学校でトラブルはないし学校へ行きたいと願っている」「急に身長が伸び始めた」などがある場合は、「起立性調節障害」の可能性を考えてください。
「起立性調節障害」は思春期に多い自律神経系の調節障害です。朝になっても交感神経系の活動が活発にならず、血圧の調整がうまくいかないので、脳への血流が維持できず様々な症状が現れます。午後になると交感神経系が活発になり、夜には元気になるので寝つきが悪くなります。午後の様子を見ると一見元気そうなので、「学校に行きたくないのではないか」「怠けている」などと誤解され、子どもが精神的に追い詰められることもあります。
起立性調節障害は3年間で約8割の方が回復する病気です。しかし、体調不良が長期間続くため、二次的に情緒不安定になったり、学校へ行けなくなったりするなど、次の問題が発生してきます。診断は特徴的な症状、他の病気がないかを調べる検査、血圧を測る検査(新起立試験)によって行います。
治療は生活の工夫や運動、お薬などを用いますが、決定的なものはありません。子どもたちがこの病気と付き合いながら成長できるように、また自己評価が下がらないようにご家族と協力して応援しています。もし思い当たる症状があれば、かかりつけ医にご相談ください。
4)子どもの心に寄り添う
子育てに正解はない、(子どもは)みんな違ってみんないい、親は子どもと共に育っていく・・・。子育てについては様々な名言がありますが、みな悩みながら対応をしています。その中で、子どもが「心の問題」を抱えたら、保護者としてどのように対応したらよいのでしょうか。年齢や状況によって対応は異なりますが、以下にポイントを示します。- 低年齢の場合
辛いことがあると、身体の症状が出たり、かんしゃくやイライラなど気分の問題として現れたりします。また、保護者から離れられない、今までできていたことができない、などもよくある反応です。子どもが心の問題のために余裕をなくしている状態だと捉えて、1)食べる、寝るなど、生活の基本となることを大切にする、2)心のエネルギーが溜まるように、楽しい活動(遊びや運動など)の時間を取る、3)一緒に過ごす時間を増やして安心できるように支援する、などに気をつけます。この時期は、自分が何に困っているか詳しく説明ができないことが多いので、大人が周囲の環境を見直すことも大切です。 - 思春期の場合
小学校高学年から二次性徴が始まり、中学校、高校と進むなかで、身体の変化と共に自己主張もはっきりとしてきます。いわゆる反抗期と呼ばれる時期で、良い意味で保護者とは異なる価値観を持ち、自分の居場所を模索し始めます。このため、保護者や先生の言うことよりも、友だちや恋人の言うこと影響が大きくなります。
この時期は、学習、友だち関係ともに複雑になり、進路選択の問題も重なって、子どもたちの心理社会的ストレスが増加します。秘密を持ったり、趣味や部活動に没頭したり、保護者や先生の提案に反発したり、白か黒かといった極端な考え方になったりもしますが、多くの場合は健康な成長の過程です。信じて見守る姿勢が大切ですが、(1)身体症状が続く、食事や睡眠が十分にとれない、(2)登校できない、友だちとの交流を避ける、(3)自分を傷つけたり、反社会的な行動をする、などの場合は、子どもが困っているサインです。何か困っていないか、ゆっくりと聞いてあげてください。また提案をする際も、決めつけた言い方ではなく、「お父さん・お母さんは〜と思う」、「あなたは?」と別個の人格であることを認めながらやり取りをしてください。
また、思春期は心身共に変動が大きく、家族も不安になります。思春期は、精神的な症状が出やすい時期なので、かかりつけ医にご相談ください。学校の先生やスクールカウンセラー、教育相談室なども色々と相談に乗ってくれます。
岡山大学病院小児医療センター小児科子どものこころ診療部 岡田あゆみ
トップ > 小児科医コラム